いまの制度の”軸”は自立支援
介護保険はスタートした時点から、「自立支援」を基本概念としています。
「この法律は、…(中略)….、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、……介護保険制度を設け……、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。」
はい。これは介護保険法の第1条。介護保険の”目的”を定める文です。
ひとの可能性、尊厳を重要視することを明確にしているとても非常に素晴らしいものだと思います。
しかし、この言葉は、介護現場において「信念対立」を生む象徴のような言葉になってしまっています。
たとえば、こんな議論をよく耳にします。
自立支援がしたいか、したくないか。
自立支援の視点を入れたケアプランをつくるか、つくらないか。
物事を強要してまで、本人にしてもらうことに価値があるのか、ないのか。
これは自立支援の本質を捉えていない、表面的な議論です。 介護従事者など「サービスを提供する側」の視点にしか立っていないからです。
「自立支援」の捉え方
厚生労働省は、2017年8月23日の社会保障審議会介護給付費分科会(資料)で、以下のように自立の概念について述べています。
- 自立の概念については、どういった観点に着目するかによって様々な捉え方が考え得る。
- たとえば 世界保健機関WHOの国際生活機能分類であるICFでは、生活機能と障害を「心身機能・身体構造」と「活動・参加」に分類しており、「自立」に向けたアプローチにおいても、生活機能や時間軸のそれぞれの段階に対し、上記の観点から異なるアプローチを行っている。
つまり、「自立」の確かな定義(=正解)はないということです。
例にあげられたICFを自立支援のために活用するということは、「こころ・からだ」「活動」「社会参加」「環境因子」「個人因子」など、1人の”ひと”を成り立たせているさまざまな要素・側面について、それぞれの強み・弱みの関係性などをしっかり掘り下げ、その方らしい健康的な日常の生活(=well-being)の実現のために、ベストな支援について考えましょうということです。
このスタンスは、あらゆる専門職が本来目指しているビジョンと合致するものです。であれば、専門職が集まってサービス提供をしている介護事業所は、自立支援をどんどん推進していてもいいはずですが、現状そうはなっていません。
これは、介護事業所が民間運営によるサービスであるということから来る経営的問題がまず大きな障害として存在します。アウトカムに基づく報酬体系にまだなっていないため、「自立支援の成果が出たら、事業所の経営が厳しくなる」と考えてしまう経営者・リーダーが結構いるのです。
これはTRAPEとしてはとても短期的な、視野の狭いことだと感じます。 自立支援の成果 → 利用者からの感謝・満足→ 信頼獲得 → 事業所の評判up → 利用者は途切れることがない → どんどん自立支援の成果を出す、という好循環をつくることが、今後生き残る事業所を作る本来の経営のあり方なのです。
もうひとつの課題は、そこで働く専門職の「専門性の追求」という観点です。利用者のウェルビーイング(=目的)と専門スキルの提供(=手段)が混同されているのです。つい自分の「得意なこと」を中心に考えてしまうのです。
これらの課題にもちゃんと向き合うことが必要ですが(ここはまた別で議論を深めます)、その前段として「自立」とはそもそも何かということについてみんなで「対話」することが重要です。
あなたは自立してますか?
全国の都道府県・市町村における「自立支援型地域ケア会議の研修会」などに講師としてお呼びいただいた際、TRAPEでは、単なる正論やノウハウを伝えるような講演はせず、「参加者同士の対話」を重要視します。
よくこんな質問から始めます。
「みなさんは自立していますか?」「そう思う理由も教えてください」と。